用語名称(日本語、外国語)
菜種きんとん(なたねきんとん)、菜の花きんとん(なのはなきんとん)
英語:natanekinton、kinton (rapeseed flower style)
意味
菜種きんとんは、春の野に咲く菜の花の風景を写し取った季節の上生菓子です。「きんとん」とは、餡玉(あんだま)と呼ばれる芯のまわりに、ふるいで漉して細かいそぼろ状にした餡を箸で植え付けていく和菓子をいいます。漢字では「金団」と書きます。語源は中国から伝わった団子状の菓子にさかのぼり、「金(黄金・黄色)」と「団(集まり・塊)」を合わせた文字をあてたものと考えられています。
その「きんとん」のうち、緑と黄色のそぼろを使って菜の花畑を表現したものが菜種きんとんです。土台に緑のそぼろをまとわせ、その上に黄色いそぼろをのせることで、緑の野に黄色い花が点々と咲く春の景色が立ち上がります。「菜種」も「菜の花」も、植物としてはともにアブラナ科のアブラナを指します。菜の花が一面に咲いたあとに結ぶ種子から菜種油をしぼるため、同じ植物が場面によって呼び分けられているわけです。菓子の名としてはどちらの呼び名も使われますが、表現しているのは同じ春の菜の花です。
ここで補足しておきたいのが、おせち料理の「栗きんとん(栗金団)」との違いです。同じ「きんとん」という言葉ですが、栗金団がさつまいもの餡などで栗を和えた料理であるのに対し、菜種きんとんは茶席などで供される上生菓子であり、まったく別のものです。混同しやすいので注意してください。
きんとんの面白さは、内側の芯と外側のそぼろの対比にあります。東京・渋谷の上菓子店「岬屋」では、冬のきんとんには粒餡を芯に使う一方、春の菜種きんとんには軽い口当たりのあわ羊羹(上南羹)を芯に用いると紹介されています。季節ごとに芯とそぼろの組み合わせを変え、見た目だけでなく食感や甘みでも季節を描き分けているのです。
そぼろの作り方にも職人の技が宿ります。色づけした漉し餡を目の粗いふるいにのせ、しゃもじをまっすぐ下へ押し下げると、餡が雨のように落ちて長さのあるそぼろになります。これを先を細く削った専用の「きんとん箸」でつままずにすくい上げ、芯に植え付けていきます。そぼろの寄せ方ひとつで菜の花畑の表情が変わるため、まさに景色を作る作業といえるでしょう。
用語を使う場面・対象となる食品
菜種きんとんは、主に茶席で出される主菓子(おもがし)や、和菓子店の季節限定の上生菓子として登場します。出回る時期は、菜の花が咲く春、おおむね2月後半から3月にかけてが中心です。たとえば前述の「岬屋」では3月上旬から月末までの販売とされており、店によっては早春のごく短い期間だけ並ぶこともあります。
対象となる食品は、餡を主体とした生菓子です。きんとんという技法自体は四季を通じて使われ、冬は雪間のふきのとう、初夏は紫陽花、秋は錦秋といった具合に、そぼろの配色を変えることでさまざまな季節の景色を表現します。その春版が、緑と黄色で菜の花を描く菜種きんとんというわけです。茶道の世界で季節感を大切にする場面や、上生菓子として春の訪れを味わいたいときに、よく耳にする言葉だといえます。

